水陸両用バスが拓く、バス観光の未来! 東京湾マリーナから夢のクルージングへ!
2013年春の運行開始を目指す日の丸自動車の水陸両用バス「SKY DUCK」。このプロジェクトは、アメリカ・ボストンで、人々が水陸両用バス観光を大いに楽しむ様子を、社長自らが目の当たりにしたのがきっかけだったそうです。その後、車体の開発をアメリカで進めながら、江東区の「川の駅」整備計画への参加が決定し、いよいよ本格的に運行が開始されることとなりました。
今回は、秋晴れの東京湾で「SKY DUCK」号に試乗させていただきながら、
さまざまな訓練と運行テストを積み重ねるプロジェクトメンバーの皆様にインタビューしました。
総重量12tの車体(海に出たら船体)が、東京湾マリーナのクルーザリフトに軽々と持ち上げられて、海に着水したらいよいよ出航!ワクワクどきどきのクルージングの始まりです。
※写真は左から、運転手兼操縦士の堀口さん、大場さん、佐野さん、整備士の松村さん
■東京湾マリーナから荒川ロックゲートまでを遡上
東京湾マリーナのクルーザリフトに持ち上げられて、着水、出航の準備をする「SKY DUCK」号
●東京湾マリーナからロックゲートまで
東京湾マリーナを出航してから、10分ほどで荒川に入るゲートが見えてきます。ゲートをくぐると正面には首都高が見え、さらにそれを右手に見ながら左にまわり、荒川の上流に向かって7ノットの速度で進んで行きます。やがて北西の方向にスカイツリーが見えてくると、あとは旧中川と荒川を結ぶロックゲートまで、のんびりと荒川の両岸の風景を眺めながら、クルージングを楽しむ時間です。
●異なる水位の河川の間が行き来できるロックゲート
荒川ロックゲートは、荒川と旧中川を結ぶ閘門(こうもん)という、水位の異なる河川の間に船を通すための施設です。閘室(こうしつ)呼ばれるところに船が入ると、前後のゲートを閉めて、閘室内の水を放流したり、逆に水を流入させて、水位を上下させて調整します。ここは、国土交通省の荒川下流河川事務所が管轄しており、複数の船が一度に閘室に入ることができます。
水の放流などで、船体が動かないように、閘室の両壁に設置されている鉄の鎖に、ロープなどでしっかりと船を固定させる必要があります。これは人力で対応するため、大きな船になればなるほど、船体を傷つけないように注意しながらしっかりと抑えるために、かなりの重労働となります。
このロックゲートは、平日でも多くの見物客が訪れる、荒川の人気スポットのひとつです。
■ロックゲートを抜けて、建設中のスロープを見学
ロックゲートの信号が青であることを確認したら、いよいよ閘室(こうしつ)に入っていく
閘室内は狭いので、船体に傷がつかないように、操船にはいっそうの慎重さが求められる
船体に傷がつかないように気をつけながら、スタッフが協力して、
閘室の壁面の鎖にしっかりとロープをくくりつける
荒川から旧中川へは、水を放出して、約2mほど水位を下げる必要がある。その間、約15分ほど
●旧中川で建設中の「水陸両用バス用のスロープ」に到着
旧中川の河川敷に建設中の入水・上陸用のスロープは、地下鉄東大島駅の南側の中川船番所付近に、「川の駅」として整備されています。水陸両用バスを走らせるための発着地点として、江東区が2011年に計画したもので、その運行事業者として、日の丸自動車の水陸両用バスが選ばれました。周遊ルートは未定ですが、スカイツリー観光やお花見、東京湾クルージングなど、2013年の春の開始を目標に、着々と計画が進められています。
ロックゲートを抜けて、旧中川に入って5分ほど進むと、すぐに「川の駅」の建設現場に到着
江東区の「河川を利用した東京の新しい観光スポット」として期待されている
【インタビュー】試行錯誤を繰り返しながらの整備と訓練
●「SKY DUCK」号・整備担当 松村学さん
元々は乗用車の整備の担当でしたが、バスの整備をずっとやりたいと思っていました。バスの整備を担当するようになってからはちょうど10年になります。観光バスなどは、乗用車のようなガソリン車ではなくディーゼルエンジンですし、しくみも違うので、いろいろと覚えることが多いですが、そこが魅力でもあります。
今回の車両(船)は、さらに陸のものとも違うので、わからないこともいっぱいあるけど、いろいろと聞きながら、教えてもらいながら対応しています。
やはりこのような試験運転で海に出たときに確実に不具合を見つけておいて、実際に運行されるようになったときにはその不具合が出ないように、きちんと整備し、改善しておくということと、不具合に対応するための訓練が一番大切なんです。
船のエンジン整備をサポートするエドさん(左)と操船訓練をサポートする中山さん(右)
非常時に備え、東京湾クルージングの船舶が、SKY DUCK号に寄り添うように伴走している
訓練の際には、こうした外部スタッフの方々の協力も欠かせない
【インタビュー】日々刻々と変化する状況にも対応できる経験が重要
- 大場さんは、日の丸自動車のバスの運転手の中で
一番最初に船の免許を取得した - 佐野洋さんも、大場さんに続いて船舶免許を取得された運転手
先人の経験があると、後進が育つのも速いと感じるという - 堀口一郎さんは、今日はロックゲートで大奮闘
こうした経験が、本格的な運行時には役に立つ
●バスの運転手兼船舶操縦士の大場達明さん
今日は7ノット(時速13km/h)くらいの速さで進んでいますが、波の高さや潮の満ち引きなどでも船の運航は違ってきます。たとえば、風が吹けば波も高くなるし、実際に海に出ていろんな条件での対応を試してみて、日々変化する状況に、どのような対応が最適かを毎日探りながら、考えながら、勉強している感じです。飛行機なども同じだと思いますが、いかに多くの経験を積むかが重要なんです。船の免許をとれば誰でもできるというものではありません。
申請の関係で、東京ではまだ海には出ていません。海の研修は横浜や海ほたるの辺りで経験を積みました。
私も船の免許をとってから2年になりますが、1年間は東京湾クルージングという会社で、船の操船の訓練をしていただき、ようやく実地の運航に入りました。この船にはタイヤがついているので、波の影響を受けやすく、普通の船のような動きをしない。抵抗を受けやすくて、速度が上がりにくいのです。そこでまた試行錯誤を繰り返してという毎日でした。
最初は、陸のところにある海の標識すらわからなかったものです。橋のところにも通れるかどうかの標識があるし、河や海は表面的には同じように見えても深さが全然違うところがあるので注意が必要です。河は外側が深くなって、内側が浅い。その浅いところを通ると座礁する恐れもあります。
もちろん、バスの運転手ではありますが、さすがに船の方はわかりませんでしたので、最近やっとできるようになったという感じです。いま訓練を受けている二人にも、免許をとってから2ヵ月間は東京湾クルージングで船の操船の訓練を受けてもらい、その上で運航テストに参加してもらっています。自分のこの1年半の経験も、あるとないとでは全然違いますから。
SKY DUCK号 諸元
車 名 | Cool Amphibious Manufacturers International (CAMI)社製 水陸両用バス | |
登録番号 | SKYDuck-1 | 陸上(車両): 練馬200か2423/水上(船舶): 116-754東京 |
SKYDuck-2 | 陸上(車両): 練馬200か2510/水上(船舶):116-755東京 | |
全 長 | 11.99m | |
全 幅 | 2.49m | |
全 高 | 3.71m | |
ホイールベース | 6.22m | |
定 員 | 定員41名(乗務員含む) | |
車両総重量 | 軽荷時:約9,200kg/満載時:約11,000kg | |
総トン数 | 12トン | |
エンジン | 陸上(車両) | 日野自動車製 J07E 6,403cc |
水上(船舶) | いすゞマリン製造製 UM4BG1TCX 4,329cc | |
最大速力 | 陸上(車両) | 100km/h |
水上(船舶) | 7kt (13km/h) | |
登坂能力 | 平均6° 最大12° | |
喫 水 | 約1.3m |
※諸元および仕様は、変更になる場合があります。
インタビュー後記
取材当日は天気にも恵まれ、仕事も忘れて「クルージング」を満喫させていただきました。面倒なバスと船の乗り換えもなく、ダイナミックに水陸をスイスイ走るこの「水陸両用バス」。「”東京湾の水辺活性化”社会実験」も観光ツアーの実現にまでこぎつけて、スカイツリーの開業にわく東京観光にとっては、さらなる観光の目玉となることが期待されています。日の丸自動車の取組では、バスの運転手が船舶免許を取得して、乗り換えなしに走り抜ける、本当の意味での「水陸両用バス」を実現しようとしています。東京初の「水陸両用バス」を運行する日の丸自動車のパワーの源泉は、一体どこにあるのでしょう。8年前の社長の「夢」が、少しずつ、着実に多くの人々の心をとらえながら実現へと結びついていく。この取材で改めて感じたのは、夢が持つ魅力的で、力強いパワーです。「観光」も、ある意味「夢」のようなものかもしれません。日常を離れて、いろんな場所やものが見られるだけで、人々の心に喜びや希望をもたらします。企業の夢と、人々の夢や憧れが結びついて、これからどのような新しい夢が実現していくのか、本当に楽しみでなりません。